大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)70号 判決
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〔判決理由〕(本案について)
二、(当事者に争のない事実)
(イ) 原告の祖父吉田小市(昭和一三年三月七日死亡)の遺言執行者弁護士吉田鉄次郎は、別訴(<証拠>によると、別訴の第二審事件は大阪高等裁判所昭和三五年(ネ)第一二二号事件((昭和三七年四月三〇日判決言渡))であることが認められる。)で、原告および吉田信雄を相手取り、本件建物は亡小市の二女青谷ケイが小市から遺贈を受けて所有権を取得したものであるとして、小市の代襲相続人である原告が昭和三一年一一月二六日さきに代襲相続によつて承継取得した本件建物を自己の夫である吉田信雄に対してした贈与による所有権移転登記の抹消登記手続請求等訴訟を提起し、吉田信雄との関係において遺言執行者吉田鉄次郎勝訴の判決を得た結果、昭和三九年一月二〇日吉田信雄名義の所有権移転登記の抹消登記がなされた。
(ロ) 本件建物について
1 大阪法務局古市出張所昭和三九年五月二二日受付第五〇四一号をもつてなされた昭和三七年四月三〇日判決(前記大阪高等裁判所の判決)を原因とする所有者吉田歌子(原告)のための昭和三〇年六月二九日受付第一八三八号所有権保存登記の抹消登記(以下1の抹消登記という。)
2 同出張所昭和三九年五月二二日受付第五〇四三号をもつてなされた所有者吉田小市のための所有権保存登記(以下2の保存登記という。)
がなされている。
(ハ) 2の保存登記申請当時吉田小市がすでに死亡していたことは申請書等の記載上、被告登記官に判明していた。
以上の事実は当事者間に争がない。
三、被告登記官に対する本訴請求における争点(各登記処分の違法事由)は、被告登記官がした1の抹消登記処分および2の保存登記処分が、不動産登記法(以下不登法という)。四九条第二号「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」に該当するか否かに尽きるものである。
(イ) 1の抹消登記処分について
原本の存在とその成立に争のない乙第三号証によると、吉田鉄次郎は昭和三九年五月一八日付建物所有権保存登記抹消登記申請書に、「登記の目的 昭和三〇年六月二九日受付第一八三八号をもつてなした所有権保存登記抹消、申請人 吉田歌子 亡吉田小市遺言執行者・家督相続人法定代理人吉田鉄次郎(その他の事項省略)」と記載して、原告名義の本件建物所有権保存登記の抹消登記申請を大阪法務局古市出張所あてにしたことが認められる。思うに、遺言執行者の法的地位は一種特別のものであり、遺贈に関する限り相続財産について自己の名をもつてこれを管理・処分する権限を有するものとみるべく、常に相続人の代理人として相続人の権利のみを行使するものではない。原本の存在とその成立に争のない乙第四号証によると、本件建物はもと亡吉田小市所有の財産(遺贈の目的とされていた。遺贈の有効か否かは別論)であることが認められる。してみると、右申請書の「吉田歌子法定代理人吉田鉄次郎」のうち「法定」の記載は法律の誤解であるというほかはなく、吉田鉄次郎は吉田歌子の任意代理人として右保存登記の抹消登記申請をしたものと認めるのが相当である。
すると、1の抹消登記処分は申請人吉田歌子(原告)の代理人吉田鉄次郎の申請行為に基づいてなされたものであつて、登記処分の前提たる申請行為(登記処分の発動に向けられた私人の公法上の法律行為)は存在しているのであつて、当該抹消登記処分をもつて、不登法四九条二号の「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」に該当するもの、すなわち重大な瑕疵のある行政処分に該当するものということはできない(不登法四九条第三号以下の登記処分((行政処分))の瑕疵は同条第一号・二号のそれに比し軽微なものであつて、後者の瑕疵ある登記処分は行政訴訟等の方法をもつてこれを取消すことは、後述するように利害関係のある第三者の法的審問請求権を奪うこととなる等の理由により許されないところである。)。申請代理人吉田鉄次郎が申請の際(任意)代理権限を証する書面を提出していないことは前記乙第三号証によつて明白であるが、このような瑕疵が同法四九条第二号に該当しないことはいうまでもない(同条第八号、三五条第一項第五号)。もつとも、吉田歌子(原告)の申請意思が全く欠けていたことが明白であつたとするときは、これをもつて同法四九条第二号に該当するというべきか否かが検討されねばならない。瑕疵ある登記処分がなされた結果、もし訴訟手続によりこれを取消したとき、取消の結果、実体法上の法律関係につき何らかの不利益を被るべき第三者があるとしても、その者が自己の利益を擁護し、手続上裁判所に対し事実問題・法律問題についての攻撃・防禦方法を提出し得る機会を得るべき法的審問請求権(条理上、法的利害関係人は、裁判所において、法律上の審問を請求する権利を有するものと解すべきである。行政事件訴訟法三四条参照)を与える必要も余地もない場合において、始めてその瑕疵は不登法四九条第二号に該当するもの、すなわち重大な瑕疵に該当するものというべきである。そして、この法的審問請求権行使の余地ないし必要がないかどうかは、もつぱら登記簿の記載自体によつてのみ判断されるべきものと解するのが相当である。ところで、申請意思ないし申請行為の存否についての紛争に関しては、利害関係のある第三者に対し、その事実問題・法律問題について攻撃・防禦方法を講じ得べき審問請求権を与えなければならないものと解すべきである。したがつて申請意思ないし申請行為の欠缺は、同法四九条第二号に該当するということができない。
(ロ) 2の保存登記処分について
所有者吉田小市が、申請当時すでに死亡していたことが被告登記官にも申請書等の上で判明していたことは前示のとおりである。
そこで、死者名義の登記がなされたとき、もし訴訟手続でその登記処分を取消した場合、これに利害関係ある第三者に法的審問請求権を与える必要も余地もないか否かについて考えてみる。思うに登記簿上ある人の名義の登記がなされたからといつて、常に必ず当該名義人により申請当時に私法上の行為がなされるものとは限られず、たとえば、登記簿上の死者たる被相続人名義より、相続人の申請によつて相続人以外の者(被相続人の生前同人から譲渡を受けた者)に対し、生前の原因による所有権移転登記がなされることが許されており(不登法四二条参照)、他方譲渡人の死亡後同人の代理人名義の申請によつてなされた移転登記は、あたかも死者(譲渡人)が登記をしたような一見奇異なものであるにしても、必ずしも無効(対抗力がないという意味において)の登記とはされていないのである(最判昭和三一・七・二七等)。このように、死者名義の登記処分がなされてしまつたとき、登記処分の結果であるその登記をもつて常に必ず対抗力のない無効のものとすることができず、したがつて利害関係のある第三者に対し実体法上の法律関係について事実問題・法律問題に関する攻撃・防禦方法を講じ得べき法的審問請求権を与える余地と必要がないとはいえない。
してみると、死者たる吉田小市のための2の保存登記処分をもつて同法四九条第二号に該当するものということはできない(なお、亡小市名義の所有権保存登記申請の際、小市の居住証明書が提出されていなかつたにしても、これをもつて同条第二号に該当するということはできない。同条第八号)。
原告の主張は、いずれも採用することができない。(山内敏彦 藤井俊彦 井土正明)